誘導機のトルクと滑りの関係式

誘導機のトルクと滑りの関係式

はじめに

誘導機は同期機と比較して構造が単純で安価なため電動機や発電機といった回転機に多用される。しかし、誘導機には、電気的回転速度と機械的回転速度に隔たりが存在する。これを一般に滑りsというのだが、滑りsによって誘導機は、発電機・電動機・制動機(ブレーキ)の3つの働きをする。本記事では、滑りsを変化させた場合においてトルクTがどのように変化するのかをpythonを用いてグラフ化する。

(以下に比例推移のイメージのグラフ動画を載せる。グラフから、二次抵抗を増加させればそれに対応する最大トルクを取る滑りも比例的に増加していることが分かる。これを比例推移と呼ぶ。また、二次抵抗を変化させても最大トルクの大きさは一定であるということも分かる。以上の動画を作るプログラムは私のGitHubのページに載せた)

誘導機のすべりとは

単純のため最初は電動機で考える。誘導電動機の場合、機械的な回転速度Nは、電気的な回転速度であるよりも遅れてしまう。ゆえに、その度合い・相対速度を滑りsとして以下の様に定義した。

この式はそのままでは扱いずらいので、回転速度を表す式に変換する。

 

ここで、誘導電動機の場合だけでなく、発電機・制動機まで拡張すると以下の様になる。

回転速度 滑りs 誘導機
発電機
電動機
制動機(ブレーキ)

 

トルクと滑りの関係式

以下、単純化のため一相当たりの電力、トルクについて考える。

まず、二次側の等価回路だが、誘導機は変圧器と同様の等価回路としてよいので、以下の様に表すことが出来る。

ただし、これでは二次電圧に滑りが掛けてあるので、これを取り除くためsで除すると以下の様になる。

ゆえに、等価回路図は以下の様になる。

しかし、この等価回路では、電圧降下が複雑になるので単純化した以下の様な等価回路が多用される。

ゆえに、二次電流は以下の様に表すことが出来る。

これによって、一相当たりの機械的出力は以下の様に表すことが出来る。

ただし、

これにより、一相当たりのトルクは以下の様にして表すことが出来る。

滑りを変化させたときのトルク

さて、それではいよいよトルクTと滑りsの関連性をグラフ化してみよう。

Python

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import math


#パラメーター設定
#極数
p=4
#周波数
f=50
#2次電圧
E_2=100.0
#2次抵抗とインダクタンス
r_2=1.0
x_2=10.0


#滑りの範囲の指定
s = np.arange(-1.0, 2.0, 0.02)
#トルクの式
T=(p/(4*math.pi*f))*(((E_2**2*(r_2/s))/((r_2/s)**2+x_2**2)))

fig, ax = plt.subplots()



# x 軸のラベルを設定する。
ax.set_xlabel("滑りs", fontname="MS Gothic")

# y 軸のラベルを設定する。
ax.set_ylabel("トルクT", fontname="MS Gothic")

# タイトルを設定する。
ax.set_title("トルクと滑りの関連式", fontname="MS Gothic")

#x軸の反転
ax.invert_xaxis()
ax.plot(s, T)
ax.grid()

plt.savefig('誘導機トルクと滑りの関係式.png') # 画像の保存

plt.show()


グラフ

上記のプログラムを実行すると以下の様なグラフが出力される。

まとめ

誘導機の場合は、今回の様に滑りsによって電動機・発電機・制動機に機能分離することが出来て、それぞれのトルクTを表すグラフを書くことが出来るということが分かった。このグラフの概要は頻出なので記憶にとどめておくといいと思われる。

参考

2次インダクタンスを変化させた場合

以下に、2次インダクタンスを変化させた場合、グラフがどの様に変化するのかを考察するためのプログラムを載せる。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import math


#パラメーター設定
#極数
p=4
#周波数
f=50
#2次電圧
E_2=100.0
#2次抵抗とインダクタンス
r_2=1.0
x_2=int(input("2次インダクタンスを入力してください"))


#滑りの範囲の指定
s = np.arange(-1.0, 2.0, 0.02)
#トルクの式
T=(p/(4*math.pi*f))*(((E_2**2*(r_2/s))/((r_2/s)**2+x_2**2)))

fig, ax = plt.subplots()



# x 軸のラベルを設定する。
ax.set_xlabel("滑りs", fontname="MS Gothic")

# y 軸のラベルを設定する。
ax.set_ylabel("トルクT", fontname="MS Gothic")

# タイトルを設定する。
ax.set_title("トルクと滑りの関連式", fontname="MS Gothic")

#x軸の反転
ax.invert_xaxis()
ax.plot(s, T)
ax.grid()

plt.savefig('誘導機トルクと滑りの関係式'+'x_2='+str(x_2)+'.png') # 画像の保存

plt.show()




まず、のときのグラフを以下に示す。

次に、のときのグラフを以下に示す。

最後に、のときのグラフを以下に示す。

この様に、2次インダクタンスが大きくなればなるほど鋭くなるということが分かる。

2次抵抗を変化させた場合

次に、2次抵抗を変化させた場合を示す。

この場合のプログラムは以下の様になる。

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
import math


#パラメーター設定
#極数
p=4
#周波数
f=50
#2次電圧
E_2=100.0
#2次抵抗とインダクタンス
r_2=int(input("2次抵抗を入力してください"))
x_2=10


#滑りの範囲の指定
s = np.arange(-1.0, 2.0, 0.02)
#トルクの式
T=(p/(4*math.pi*f))*(((E_2**2*(r_2/s))/((r_2/s)**2+x_2**2)))

fig, ax = plt.subplots()



# x 軸のラベルを設定する。
ax.set_xlabel("滑りs", fontname="MS Gothic")

# y 軸のラベルを設定する。
ax.set_ylabel("トルクT", fontname="MS Gothic")

# タイトルを設定する。
ax.set_title("トルクと滑りの関連式", fontname="MS Gothic")

#x軸の反転
ax.invert_xaxis()
ax.plot(s, T)
ax.grid()

plt.savefig('誘導機トルクと滑りの関係式'+'r_2='+str(r_2)+'.png') # 画像の保存

plt.show()




この時のグラフは以下の様に表せる。
2次抵抗が1の時は以下の通り

2次抵抗が2の時は以下の通り

2次抵抗が5の時は以下の通り

この様に、トルクTは、が一定ならば一定であるということが言える。このような関係を比例推移という。

V/F制御

回転機の場合一般に以下の式が成立する。

これは、直流機の式と同等のものである。

この式から分かることは、電圧/電源周波数を一定に保てば磁束Φを一定にすることが出来るので、同一電流の下ではトルク一定の制御が可能であるということを示唆している。

一方で、誘導機のトルクは以下の様に表せる。

この式に対して、相加・相乗平均の公式である

を用いて変形すると以下の様になる。

この様に、最大トルクは(電圧/電源周波数)の二乗に比例するため、電圧/電源周波数を一定に制御することが出来れば、最大トルクを制御することが出来る。このような制御方式をV/f制御といい、複雑なベクトル制御を用いるまでもない単純な機器において多用される方式である。

参考文献

誘導式のトルク式の導出過程

V/F制御と最大トルクについて



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